手術に付き添いは必要?拒否する家族に多いトラブルと対策
退院調整看護師のさやみんです。
最近、手術の説明をする際に、必ず
- ご家族のどなたかが付き添って欲しいこと
- 手術のお話には必ず同席をしてほしいこと
- ご本人の理解が不十分な場合には、お薬などの管理をしっかりしていただきたいこと
を伝えているのですが、ご家族からの「できない」「行けない」という意見がとても多くなってきたので、
- ご家族が手術に付き添う目的
- 強制なのかどうか?
行かなかった場合のリスクについてもお伝えしたいと思います。
家族は手術の付き添いを拒否できる
まず大前提ですが、ご家族の付き添いは強制でも義務でもありません。
病院側からのお願いです。
しかしなぜ付き添いを求められているのかをしっかり理解していていないと、そのあとにトラブルになってしまうこともあります。
10分程度で終わる手術でも家族に来てもらう目的
私たち病院側は、やみくもに家族を呼んでいるわけではありません。
手術にも脊椎麻酔(腰椎麻酔)や局所麻酔といった種類があり、それぞれ副作用が異なります。
局所麻酔は私たちが普段歯医者などで行っているものなので、特別付き添いの必要はないといえますが、問題は脊椎麻酔。
こちらはその文字のとおり、脊椎に麻酔をするので、どうしても脊椎損傷や血圧や呼吸低下などの重篤な副作用となりやすいのが特徴です。
例えば10分ほどで終わるような前立腺生検のようなものも、手術の分類となり、脊椎麻酔が用いられます。
よく
「こんな検査に付き添うの?先生も30分もあれば終わるって言ってたよ?」
とご家族から言われることも多いのですが、実際には手術中に状態が急変してしまう患者さんもいます。
この時にご家族に正しい情報の提供と、万が一の際の選択をしてもらうことが主な目的といえます。
確かに何もなく終わるケースがほとんどですが、もしものことも当然起こりうるという認識を持っていただけたらと思います。
家族のサポートがなかったらどうなる?
では手術の際にご家族が来ていなかったり、手術前後のサポートがないとどうなってしまうのでしょうか?
手術の経過や結果がわからない
手術は当たり前に予定通りいくばかりではありません。
- お腹を開けてみたら、状況が予想よりひどかった
- 手術の術式が急遽変更になった
このようなことも普通に起こります。
もし術式が変更になるようであれば、付き添っているご家族に手術中に面談があり、そこでご家族に選択をしてもらうのですが、家族がいないと誰もその選択をしてくれません。
ですので
本当は腫瘍などをすべて取り除きたかったけど、家族の同意がないためにその術式へ変更できなかった
というようなこともあるわけです。
しかし現場にいないと、このような経過や結果がわからず、後々「そうだったの?」「知らなかった」という考えの相違につながってしまいます。
手術が出来ない
以外に多いのは、入院したのに手術が出来なかったというケースです。
どういうことかというと、
術前の生活管理が出来ていなかった
ことが一番の理由です。
手術にあたっては医師や看護師から事前に
「このお薬は1週間前から中止しておいてください」
「入院当日の朝は、何も食べないで来てください」
などの守っていただかないといけない事項を説明しています。
しかし高齢の患者さんだけで、このお話を聞いていて、直前になって内容を忘れてしまうことも多くあります。
また、お薬を飲みやすいように一包化していて、その中に中止するお薬が含まれている場合、ご本人だけの判断でお薬を抜いてしまうと、間違ったお薬を中止し、本来飲んではいけない抗凝固役(血液をサラサラにする薬)を飲んでいたという事態も起こります。
まだこのことが手術前にわかれば、入院はしたけれど手術は中止となります。
しかし万が一手術が開始となってから血が止まらないという状況になってしまっては対応ができないことも。
このような場合ですと、本来の目的である手術が適切に施行できなだけではなく、いったん入院をしているので、入院費が無駄にかかってしまうことや、また手術と入院を組み直すので本人や家族の負担も倍にかかってしまうことになります。
どうしても付き添いたくない場合に家族がすることと覚悟
それでも、家族には家族側の生活も仕事もある。距離も遠いし、そんなに簡単に病院の都合で行けないという方もいますよね?
もちろんご家族側の事情も大切ですし、病院側もそのような家族の生活を無視してまで強制することはできません。
(中には脅しをかけるような医師もいますが・・・)
ですのでご家族側の負担が大きすぎる場合にしておいてほしいことや、その覚悟についても書いておきたいと思います。
何かあっても受け身でしかいれない
厳しいようですが、医療スタッフはご家族の協力が必要なことをご家族に説明をし、それに対するご家族の反応を詳細にカルテに記載しています。
万が一手術で想定外に病状が悪化したり、死亡というような悲しい結果になった場合、ご家族がその場にいなかったことで対応の相談が出来なかったということで「仕方ない」と終わってしまうことも。
そこに家族がいれば
「どうしてこうなったのか?」
「他に何か選択肢はあるのか?」
といったお話を執刀医と現場で行うことが出来ます。
以前には急変し、もう生存の可能性がほとんどないと知った患者の家族が、「どうしても」ということで手術室まで入室し、ご本人の病態を目の前で見て納得し、結果を受け止めていただいたというケースもありました。
その場にいないと分からない事実や医師の考え方は、事後では十分に理解されません。
このように万が一の事態になったとしても、家族が付き添っていない場合、不利になってしまうことを覚悟していて欲しいと思います。
あなた以外の家族にも必ず伝えておく
もしあなた以外に身内やご家族がいるのであれば、その他の家族に病態や手術のことを事前にお伝えしておきましょう。
よくあるトラブルのうち、何も聞いていなかった家族が後から
「どうしてこうなったんだ?」
「何も聞いていない」
と出てくるケースです。
病院側は家族の代表の方に一度説明をすれば、要望がない限りは面談をもうけません。
ですので、もしご本人に何かあって困るようなご家族が他にいるのであれば、必ず手術や病気の説明を受けた人が他のご家族へ手術などについてしっかり事前にお話ししておいてください。
知人やご近所さんでもいいから聞いてみる
最後の方法としては、家族じゃなくても付き添いができる人はいないか考えてみることです。
遠くの親戚より近くの他人というように、家族は知らないけれど、実際には近所で親しく病状などを共有している友人の方などがいたりすることが多くあります。
中には、家族の代理として「ご近所の〇〇さん」「職場の上司・同僚」などが同席されたことも・・・
これについては医師などに事前の相談が必要にはなりますが、私の病院では
「誰もいないよりはいいでしょう」
ということでご家族以外の方が付き添われることもあります。
なのでご本人に「誰か付き添ってもらえるような身近な人はいないか?」を聞いてみるのも一つの方法です。
まとめ:家族の付き添いは義務ではないけれど、リスクを認識しておくことが大切
以上病院側の視点で家族の付き添いについて書かせてもらいました。
そうはいっても自分の家族や生活を犠牲にしてまで、付き添いは無理という考え方もよくわかります。実際に私も親が遠方なので・・・
でもそこですべて切り離して考えるのではなく、身近な親族や知人に頼めないか、当日だけでも携帯をポケットに入れておくなどの出来ることを病院と一緒に考えてみましょう。