病院から退院を迫られ追い出される理由と対策を退院調整看護師が解説
病院からまだ状態も落ち着かないのに退院を迫られたり、自宅に帰れる状態でないのに、退院日を決めるように言われて病院に不信感を抱く人は少なくありません。
実際に私は退院調整看護師として日々、患者さん側に退院を責めている側なので時にはご家族から大声で怒鳴られたり、「もっと入院をさせてほしい」とお願いされる立場にあります。しかし残念ながら病院側としても退院をしてもらわなければならない事情があることをご理解いただきたいと思います。
そんなことを言っても、自宅にも帰れないし、どこにも退院できないという主張はよーくわかります。」ですのでそんな方に向けて、退院を迫られ、病院を追い出される方の対処法も一緒にお伝えしたいと思います。
なぜ病院側は早期に患者を追い出すのか?
追い出されているという患者側からすると、
「ベッドも空いているのにどうしてもっといさせてくれないんだ」
「誰も面倒見れないのに、どうしろっていうんだ!」
という気持ちはすごくよくわかります。
ではなぜ病院側は患者を早く退院させたがるのかという理由について解説します。
日本の現状をまず知ってください
まずは今の日本の現状をおさらいしていきましょう。今日本は4人が1人が65歳以上の高齢者で、2060年には高齢者の割合は39.9%にも上ると予想されています。
そして自宅で生活ができない、あるいは何かしらのサポートが必要な要介護認定者数は
- 65~74歳:要支援1.4% 要介護3.0%
- 75歳以上:要支援9.0% 要介護23.5%
という現状になっています。そしてこの介護認定者数の割合は年々増加傾向になっています。
つまり、これからは介護が必要な状態の方がもっともっと増えていくということになります。
となるとどうなるか?
介護が必要になった方の居場所がないということになりますよね?
だから日本政府はこう考えました。
病院にいてもらったら医療が必要な方が困る!本当に医療が必要な方だけを病院にいさせよう
つまり強制的に「入院日数が長くなると病院の利益が少なくなる」といった医療費の算定方法であるDPC方式を考え出し、病院側に無駄な長期入院をさせないルールを作りました。
dpcについてはこちら。
なんてひどい考えだと思いますよね?
家族にとってみれば、大切な親などを追い出し、そして後の面倒も見ずに放置させる気か!と怒りたくなると思います。
しかし日本政府はちゃんと代わりのサポートも考えているのです。
その代わり病院外で過ごせる場所や自宅で生活しやすいサービスを増加させる
しかし無理やり退院させても、家にも帰れないし、だれも面倒を見れる人がいないという事態に多くの方が陥ることは容易に想像ができます。
そのため日本政府は、「地域包括ケアシステム」というものを考え出し、病院での生活を中心とするのではなく「地域で自分らしく過ごす」ことを目的にして、病院から地域へ生活を移すという日本人の固定観念を変えるための政策を実行中なのです。
この日本社会の方向性と、今まで当然だった「病院が見てくれる」ということを当たり前に思っている日本人のギャップが今のこの退院トラブルを生み出しているという状況なんですよね。
地域包括ケアとは何なのか
先ほど初めて知った方も多いと思いますが「地域包括ケア」というものを日本は今後の重要政策として進めています。
これを簡単に説明すると、
「病気で治療が必要になった時だけ病院を最低限利用し、その他は住み慣れた地域で暮らし、その人らしく生活をしていくためのシステム」といえます。
つまりあなたが感じている「病院から追い出される」ということは、「日本の政策が病院に居続けることを認めない」といえるわけです。つまり病院だけの責任ではないということがお分かりいただけたでしょうか?
この地域包括ケアシステムを活用すれば、病院だけではなく地域全体で生活するご本人を、人生の最後まで支えることができるようになります。
病院のベッドコントロールの現状
私は総合病院で働かせてもらっていますが、現在このような大きな総合病院では入院するまで1か月程度待っている方がたくさんいらっしゃいます。
その理由の一つとしてこのような「退院先が見つからない患者さん」があげられます。
あなた自身、病院から退院を迫られて不快な想いを感じていることはとてもよくわかります。でも逆の立場であなた自身や、妻や夫、もしくは子供たちがががんんと診断されて、すぐにでも治療をしたいのに、病院のベッドの都合で入院ができなかったらどう思いますか?
実際に私はこのような待機入院をしている患者さん側から、何度も患者さんに入院をせかされています。
「早く入院して治療をしてほしい」
「先生からはすぐにでも治療をするように言われている」
このように病院のベッドの都合で入院ができない患者さんが見えないだけでたくさんいるのです。
ですので、少し視点を切り替えて病院で生活するのではなく、地域のシステムを利用して、ご本人が過ごしやすい生活を実現させてみるのはいかがでしょうか?
追い出されるのではなく、地域で生きていくことを考えてみる
少しでも病院側の現状を理解していただけたでしょうか?しかし、ただ家に帰ってほしいとは誰も思っていません。自宅で安心して過ごすために、介護保険のサービスや地域の見守りなどさまざまなものを活用することができるようになっています。
そのサービスは
- 健康維持のための体操教室
- ヘルパー
- デイサービス
- 配食サービス
- リハビリ
- 訪問看護や訪問診療などによる医療ケア
- 泊りで介護をしてくれるショートステイ
- 継続して介護をしてもらえる施設入居
など多岐にわたりすぎてすべて記載することができないほどです。
そのサービスを私はもっと活用してほしくてこのブログで発信しています。
このような生活を支えるサービスがあることを知って、ぜひ病院だけに頼らず住み慣れた地域で暮らすことを目指してみてはいかがでしょうか?
病院から追い出されたと感じた際の対策
このように聞いても、「どんなサービスがあるかわからない」「よくわからないから不安」と感じる方も多いと思います。
今まで利用したことがないものというのはだれでも不安で、それを始めるのに躊躇するものです。もしどのように判断し、どんなサポートを使えばいいのかわからなくなってしまった場合の対処法についてお伝えしたいと思います。
身近にいる相談員に相談する
地域や病院にはこのような生活の不安を感じている方のために、たくさんの相談に乗ってくれる方たちがいます。
例えば私のような病院の相談員、または担当のケアマネージャー、地域包括支援センターなど身近にこのような介護や生活の場所を相談できる窓口はたくさんあります。
ご本人が今入院中であれば、まずは地域連携室や相談室などの窓口に相談することから始めてみましょう。
何も知らなくても大丈夫です。私たちが患者さんの病気や生活状況をもとに、どんなサポートが必要なのか考え、介護保険の手続きの説明をしたり、必要があればケアマネージャーを探すお手伝いや、自宅が無理なら自宅近くの施設の空き状況や入居の手配なども行っています。
ご家族内で話し合う
私が担当させていただくケースで多いのが、退院先がないとご家族の一人が困っていて、他のご家族が何も知らずに無関心のままでいるというケース。
あなたは退院を迫られて自分一人で悩んではいませんか?
他のご兄弟などと退院先について、よく話し合っていますか?
実はこのようにご家族の一人が抱え込んでしまっていて、ある時に他のご家族がこの問題を知って、「じゃあうちに来なよ」とあっさり解決するケースも少なくありません。
何が言いたいかというと、一人で退院や生活のことを悩むのではなく、ご家族みんなでこの問題を解決しようとすることが重要なのです。これを医療用語でインフォーマルな資源というのですが、意外と外部のサポートばかりを探していて、悩んでいる方も身近なご家族が協力できることを見逃していることが意外と多いのです。
「遠方にいるから」「迷惑をかけられないから」と相談する前に諦めるのではなく、まずはできるだけ多くの家族や身内を巻き込んで問題を共有するようにしてみましょう。意外なところに解決の糸口が見つかる可能性もありますよ。
まとめ
病院を追い出されるというのは、ご家族にとって不安で病院に対して嫌悪感を抱くことだと思います。私たちも決してその気持ちがわからないわけではないのですが、実際にはこの先の入院を予定している方のために、ベッドを空けなければいけない現状があるということもお分かりいただけたでしょうか?
今日本は「病院から地域へ」と療養場所を移行している段階の最中です。
このジレンマにより、多くの患者さんやご家族が見放されたと感じてしまうかもしれませんが、これからは地域でサービスを活用しながら生きていく時代になります。
ぜひその傾向も理解し、地域で安心して暮らせる方法を見つけてみてはいかがでしょうか?