介護老人保健施設(老健)は何をする施設?入所できたケースとできなかったケースも紹介
介護老人保健施設は自宅に帰るためのリハビリ主体の施設
介護老人保健施設は通常「老健(ろうけん)」と呼ばれ、医学的に適切な介護やリハビリテーションを実施することで、利用者の自立支援と在宅復帰、在宅療養支援を担う介護保険施設です。
他の施設と異なり、直接医療を提供しているのが特徴です。
介護保険を利用して入所することが出来る施設で、「自宅に帰る」ことを目的としています。他の施設に比べ、圧倒的に医療的なケアが充実しており医師も常駐のため安心して過ごせる施設で、入院治療の必要はなく病状は安定しているけれど、医療依存度が高い方に適した施設といえます。
しかし長期的に入所することは難しく、基本的に3か月までという制約があり、基本的には自宅(または老人ホーム等へ入居)へ戻るという流れになります。
病気で入院したけれど、リハビリが必要であったり、病状が安定するまでまだ家に帰れる状況ではないというような、「退院の準備やリハビリをした方がいい」という方に適しています。
老健に入所できるのはこんな人
[char no=”1″ char=”パパ”]うちのおばあちゃんは要介護1なんだけど大丈夫?リハビリの目的で老健をすすめられたんだけど、自分でしっかり歩けてるのに老健って入れるの?[/char]
[char no=”7″ char=”ママ”]父が脳梗塞後でご飯を口から食べられなくなっちゃって・・・今は鼻から管を入れて栄養を摂っている状態なんだけど、こんな状態でも老健って入れるの?[/char]
老健って病院でもないし、ずっと入所できる施設でもないので、なんだかよくわからない・・・
そんな方のためにどんな方が入所できるのか、実際に病院から老健へ退院したケースをもとに説明していきたいと思います。
自立でも寝たきりでも、要介護が出ていれば大丈夫!
老健は要介護度で「要介護1以上」があれば、誰でも入所が出来ます。
また特養のように「介護度が重い人が優先」というルールもないので、比較的スムーズに入所することが出来る施設です。
自宅に帰るためにリハビリが必要な方や状態が落ち着くまで医療的な処置が必要な方にはおすすめの施設といえます。
実際に特養に入所したケース
- もともと自分で動けていた方が、長期入院による体力低下によって歩行が不安定になってしまったケース(リハビリ目的)
- 糖尿病でインスリン導入となり、血糖コントロールとインスリン注射を実施していたケース
- 肺炎になり、痰の吸引が必要になったケース(在宅はもどることが出来す、老健から老人ホームへ入所となった)
- 脳梗塞などで嚥下機能(飲み込む機能)が低下し、経管栄養をしているケース
- 高カロリーの点滴を常時24時間実施しているケース など・・・
このように医療ケアが必要なケースの多くが老健へ入所していることがわかります。
老健への入所を断られてしまう場合
老健は医療依存度が高く、在宅へ帰るためのリハビリなどを必要としている方の施設と説明しましたが、その目的に該当していても、実は入所を断られてしまうこともあるのです。
以下で説明する医療保険か介護保険かについての内容ともかぶりますが、老健は「まるめ」といって入所費用をすべて介護保険から給付される形で賄われており、医療保険などを併用することが出来ません。そのため特別な医療処置や高額な薬剤を使用している場合には、施設の負担が大きすぎて施設の経営が赤字になってしまうため、入所を拒否することがまれにあるのです。
また頻回の医療行為は老健側の負担にもなり、入所を渋られてしまうことも。
ではどのような場合に老健への入所を断られてしまうのでしょうか?実際に私が入院中に対応したケースで老健への入所を断られてしまったケースを紹介します。
老健への入所を拒否されてしまうケースとは
- 抗がん剤を内服していたケース
- 最新の内服薬を服用していた(同様の効果で古い薬剤に変更し、入所が出来た)
- 1日6回の血糖測定と毎食前のインスリン注射をしていたケース(インスリンの薬剤を変更し、一日1回の注射へ変更し、血糖測定も隔日へ変更し入所ができた)
- 経管栄養の注入に1時間以上かかり、高額な栄養剤を使用していたケース(栄養剤を老健が指定したものへ変更し入所出来た)
- 経管栄養中で、何度も自分で管を引き抜いてしまうケース(胃ろうを作り、入所出来た)
など・・・
このように医療処置が出来るといっても、経済的な負担やスタッフへの負担が大きくなりすぎる場合には、施設側から入所を拒まれてしまうこともあるのです。
しかし老健と相談しながら、利用者と施設側のバランスがいい程度でお互いが納得できるような医療処置に持っていければ入所も可能になることもあります。実際に私たち病院側は施設側と相談をして、薬や医療処置の方法を施設側に合わせる形で調整をしています。
施設内の部屋は個室?大部屋?
施設にもよりますが、大部屋と個室、ユニット型などさまざまなタイプの部屋があります。
お部屋によって雰囲気や快適感、費用も大きくことなるため、それぞれのメリット、デメリットを理解しておくといいでしょう。
なんといっても費用が魅力的な大部屋(多床室)
大部屋は多床室と呼ばれ、1つの部屋に2人~4人程度の利用者が過ごすことになります。まれにまだ6人部屋の施設もあるようですが・・・あまり大人数だと音やにおいで不快に感じてしまうこともありますよね。
個人のスペースはカーテンなどで区切られてはいますが、あまりプライバシーを守られるような環境ではないのが現実です。
しかし何と言っても多床室の魅力はその費用の安さ。
ひと月10万円以内に抑えられるのは、この多床室くらいなものではないでしょうか?
しかし実際に過ごされるのは利用するご本人なので、利用者の希望は尊重して選ぶようにしましょう。
現在はユニットタイプの個室が主流!
ユニット型という施設のタイプを知っていますか?
施設になじみのない方だとよくわからないかと思いますが、今では老健をはじめ介護施設ではこのユニットタイプの生活スペースが主流になっています。
ユニット型というのは、基本的には個室で過ごすのですが、その個室自体が食堂などの中心的な空間を囲むように配置されており、食事やレクリエーションの際は利用者たちが集まって、人間関係を築きながら食事などを楽しむことが出来るようになっている居住スペースのことです。
今まではそれぞれが独立した個室で生活をしていましたが、ユニット型のように中心的なスペースを囲むような配置にすることで職員も目が届きやすく、利用者も気軽に部屋から出て他の利用者との交流などを楽しむことが出来るようになりました。
どのようなものか気になる場合には、ぜひ施設へ足を運んでユニットタイプの雰囲気を感じてみて下さい!私も実際にユニットタイプの施設でお手伝いをしたことがあるのですが、利用者同士が家族やお友達のようなかんじでアットホームな雰囲気が特徴的でした。しかし部屋にいたいという方はすぐ部屋にもどれるのもメリットで、利用者の意思を尊重しやすいのもポイントです。
老健の雰囲気は施設によってもさまざま
老健は100床程度の定員を持つ施設が一般的ですが、そのほかにも次のような小規模な老健の形態も存在しています。
- サテライト型:老健や病院などを本体施設として別の場所で運営される小規模な介護老人保健施設。定員29人以下で本体の施設と密接に連携して運営している。
- 医療機関併設型:病院や診療所に併設される小規模な介護老人保健施設。定員29人以下。
- 分館型:本体の介護老人保健施設の分館として、過疎地域などに限って認められる小規模な介護老人保健施設。
- 介護療養型:療養病床を介護老人保健施設へ転換したもの。
このように老健といっても、大規模なものから小規模なものまであり、施設の雰囲気も少人数の家庭的な環境を提供するような施設もあります。
ぜひ入所前には自分の目で見て、納得して決めたいですね。
老健にいる職種について 特養、介護付き有料老人ホームとの比較
介護老人保健施設ではどのような職種のスタッフが働いているのでしょうか?
介護老人福祉施設 (特養) |
介護老人保健施設 (老健) |
介護療養型医療施設 (療養病床) |
介護医療院 (平成30年新設!) |
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医師 | 必要数(非常勤可) | 利用者100人につき1人(100人未満でも1人は必要) | 必要数(診療所では1人以上) | ⅠとⅡがあり、Ⅰは3人以上、Ⅱは1人以上 |
看護師・介護職員 | 入所者3人当たり1人 | 看護師:入所者÷3以上の数のうち2/7程度 介護職員:入所者÷3以上の数のうち5/7程度 |
利用者6人に1人以上 | Ⅰは利用者6人に1人以上、Ⅱは利用者3人に1人以上 |
栄養士 | 1人以上(40人以下の施設で他施設の協力があり、支障がなければ配置しなくても可) | 入所者100人以上で1人以上(兼務可) | 基準なし | 基準なし |
機能訓練指導員(リハビリのための職員) | 1人以上(兼務可) | 入所者÷100以上の数 | 適当数(診療所では基準なし) | 基準はないが老健などに準ずるものとしている |
介護支援専門員(ケアマネジャー) |
常勤で1人以上(兼務可) 入所者100人ごとに1人追加 |
常勤で1人以上 | 1人以上 | 基準はないが老健などに準ずるものとしている |
なんだかよくわからないような聞きなじみのない施設も比較対象にしちゃっていますが、療養病床というのは病院にちょっとだけ併設されている、療養型という名のついた病院内の施設のことです。
ここも医療機関というだけあって、医療処置が必要な方に人気の退院先であったのですが、かなり社会的な入院が多くなり自宅に帰らず半永久的に療養病床ですごされることが問題視され、もうこの療養病床は廃止の方向で進んでいるのが現状です。
その療養病床に変わり、新しく2018年から新設されはじめたのが介護医療院で、これはまさしく老健と同じようなくくりになっているが特徴です。
まだ世間的に知られていない施設ではありますが、今後老健と同様に医療処置が必要な方が入所されることが予想される見込みです。
医師が常勤で安心、看護師は夜間はいないことも。
老健は医師が常勤でいるため、何かトラブルや状態が変わった場合でもすぐに対応してもらえるため、医療的な不安がある方にはとても安心できる施設です。しかし病院と比べると出来る医療行為は限られており、詳しい検査が必要な場合や、24時間の観察が必要になった場合には病院へ入院することもあります。
看護師についても常勤ではありますが、24時間体制でない施設も中にはあるようです。
昼間だけは看護師はいるけれど、夜間に何か医療処置が必要になった場合には、看護師が自宅から施設に呼び出されるという体制の施設もあります。
施設によって体制や医療の充実度にも差があるため、事前に比較などをしてその方にあった施設を選ぶようにしましょう。
老健は病院よりは医療体制は劣るけれども、他の介護施設の中では安心できる施設といえそうです。
老健の入所にかかる費用は?医療保険は使える?
老健は入所の費用は介護保険の給付からが原則です。
要介護1~5の程度に応じて介護サービス利用料の自己負担額が決まっており、そのほかに居住費と食費の生活に伴う費用が自己負担となります。これらの料金体系は一律で定められており、民営の有料老人ホームなどと比べてみると、入所費用は安く抑えられる施設といえるでしょう。
また上記で説明した「大部屋(多床室」「ユニットタイプ」「個室)などの部屋の種類によっても、金額に差が出てきます。
大部屋タイプ(多床室)が最も費用が安く抑えられれ、ひと月の負担が10万円以内に抑えることも可能です。反対にユニット型の個室などは料金も高く13万~15万円程度かかってきます。ユニット型個室は費用はかかりますが、今まで通り自分らしく自由に生活がしたいという高齢者の方に人気のタイプになります。
それでも介護保険施設は入居一時金などはなく料金体系もしっかり定められているため、経済的な負担は他の施設に比べても比較的少ないといえるでしょう。
平均的な入所期間は3~6か月!半年以内に自宅に帰るのが原則
老健は「在宅復帰」を目的とした施設だと書きましたよね?
ここがとても重要で、老健では3か月ごとに検討会議が開かれ「退所」か「入所継続」かの判定されています。そこで「退所」の判定を受けると、自宅などへ戻らなければいけなくなるのです。
そのためずっと老健へ入所し続けるということは、基本的にはできません。
まれに例外で自宅へ復帰することが困難になり、看取りまで入所し続けることもあるようですが、老健へ入所する際は必ず自宅なりに退所していくということが大前提になってくるのです。
老健の空き状況は?
老健はかなり入所者の回転(入所から退所までの流れ)が良い施設といえます。
同じ介護保険施設である特養はかなり空きがなく数年間も待機している方がいる一方で、老健は意外と空きがあったりして、すぐに入所が出来る方が多い印象です。
しかし中には人気の老健もあり、空き待ちをしなければいけないこともあるため事前に空き状況などを確認してみるようにしましょう。
基本的な入所パターンは病院⇒老健⇒自宅へ
ここまで老健のことについていろいろ書いてきましたが、基本的に老健は自宅に帰る前に一呼吸置くための施設であり、最終的には自宅に帰ることをゴールとしています。
また老健に入所するキッカケというのは、大半が病院への入院です。
病気やケガがきっかけで医療処置や介護が必要な状態となり、入院して初めて自宅に変えることへの不安を抱く方がとても多くいます。
そこで私たち退院支援のスタッフは、
「自宅に安心して帰るために『老健』という施設があるけれどどうですか?」
という提案をさせてもらっているのです。
老健へ入所する方やそのご家族はほぼ最初の時点で老健がどんな施設なのかを知りません。
最初は「そんな施設に入る必要がある?」「お金もかかるしいいよ。」という反応を示す方もいらっしゃいますが、老健は安心して自宅に帰るために、最終的には納得され、入所してよかったと感じる方も多いようです。
このように老健の位置づけは、病気が落ち着くまでの期間過ごすための、専門的なサポートが受けられる一時的な施設といえます。
自宅以外の退所先はあるの?
実は老健から自宅以外へ退所することもあります。
中には
自宅に帰るつもりだけど、一人暮らしで誰も見守ってくれる人がいない
などの場合には、最終的なゴールを自宅ではなく他の有料老人ホームなどへ予定してから老健へ入所し、その間に入所する施設を探したり、空きを待つこともあるのです。
そのため必ずしも「自宅へ帰る」という条件ではなく、自宅に帰るのが困難な場合でも、他の施設で暮らすための準備として老健を利用することもできるのです。
また老健入所中に状態が悪化したり、新たな病気になってしまった場合には、また病院へ戻るというパターンもあります。
ナース間では「出戻り」などと言われてしまうこともありますが・・・
このように状態や、今後の生活する場所に応じて老健から出ていく先はさまざまなのです。
まとめ
ここまで老健について看護師視点での個人的な意見も含めお伝えしてみましたが、老健についておわかりいただけたでしょうか?
私は老健は自宅に変える準備や体づくりの為に、重要な施設だと認識しています。
ぜひこの機会に老健について詳しく知っていただき、実際に入所を検討されるようなら自宅近くの施設を自分の目で見て判断してみましょう。