高齢者に「運転をやめろ」は危険!免許返納に効果的な家族の説得方法とは?
こんにちは。退院調整看護師のさやみんです。
今、高齢者ドライバーの運転や事故が大きな問題となっていますよね。
毎日のように高齢者ドライバーによる事故がニュースで取り上げられ、悲しい事故を一つでも無くしたい、高齢者ドライバーの危険リスクを減らしたいと考えている方も多いのではないでしょうか?
そして中には「高齢者は運転するな」「年齢制限を設けて免許を取り上げるべき」という考えもありますが、実際はどうなのでしょうか?
私は高齢者の方々の退院に向けて病院で支援をさせておりますが、中には脳梗塞や長期の入院で運転が出来ない状態になって退院という方もたくさんいらっしゃいます。
どう見ても運転は出来ない状況なのに、ご本人とすると
「運転しないと生活できないからそんなこと言われても困る」
という強い拒否を示す方がほとんどです。
今回は高齢者の方に運転をやめろという方法の是非を家族や周囲の方が高齢者ドライバーに対する適切な対応というものを考えていきたいと思います。
強制するだけでは高齢者の危険運転はなくならない
例えば骨折や脳梗塞などで手足が自由にきかなくなり、すでに運転ができない状況になってしまった高齢者がいるとします。
病院ではそのような方の運転のリスクを考え、主治医などから運転をやめるように助言やアドバイスをさせていただくこともあるんです。
そのように医師からちゃんとした指示として、「運転をしてはいけない」と受け取った高齢者は果たして運転をやめるでしょうか?
答えはNOです。
どれだけ体や病気のことリ運転のスクを説明をしても、運転したご本人にとっては全く関係のない話。
その時だけは「分かりました」という納得をしても、実際退院して家に帰るとどうしようもなくて、また車に乗ってしまうという方が後を絶たないのです。
周囲が何を言ってもダメな理由
ご家族としては
「かかりつけの医師から言われればさすがに本人も気が変わるだろう」
と思って私達病院に相談をしてくれることはあるのですが、医師からのお話はアドバイスであり、強制力はありません。
精神疾患やてんかんなどが持病にあり、診断書を提出する場合には、それが効果的にはなりますが、脳梗塞や一般的な疾患で医師が運転免許を取り上げるということはできないのです。
そのため医師をはじめ、家族など周りの人間が何を言っても本人には響かないという現状があるのです。
では、なぜご本人は自分の危機感を感じないでしょうか?
今まで運転できていたという自信がある
運転をしている高齢者は今まで何十年と車に乗り続けてきた経験があります。
そしてその長い経験年数の中で「自分は事故を起こさなかった」「自分の運転は安全だ」という自信が出来上がっています。
さらに認知機能が低下しているような場合は、こだわり強くなってしまったり、自分の性格が頑固になってしまうことによって、自分以外の人間の指示やアドバイスが聞き入れられない状態になってしまっていることも少なくありません。
車がなければ生活ができない
都心部は車がなくても交通手段がたくさん選べますが、地方の場合、車がないと買い物や病院への受診にも行けず、タクシーを利用するとかなり高額になってしまうような場所に住んでいる方もたくさんいらっしゃいます。
そのような方の場合には、車自体が生活の一部となっており、誰かがそのサポートをしない限り車の運転を辞められないという状況があります。
実はこのような理由の場合、ご自身は「自分の運転は危ないかも」「そろそろ運転はやめた方がいいかな」という危機感を感じていることも少なくありません。
つまり適切な対処法と車の代わりになる代替案を提案してあげれば、このような理由の場合には車の免許返納がスムーズになることも多いのです。
車が便利なものだと思っている
地域的にバスやタクシーなども利用出来る場所に住んでいて、車に乗らずとも生活ができる環境にあるのに、車に乗り続けてしまうという高齢者もいます。
このような方の最大の理由は「車が最大の便利アイテムだ」と思っていること。
実際に車は荷物をたくさん詰めて、時間を気にせず好きな時に外出できてしまいますよね?だからこそ本人は大好きな車を手放したくないと感じやすい傾向にあります。
家族が本人に免許返納をさせる効果的な説得方法
このように聞くと、先生、医師から本人に言ってもらっても効果がないなら、免許を返納させる手段はないのかと思ってしまいますよね?
でも上記で挙げた理由と原因を一つ一つ解決していけば、免許返納に繋げられる可能性はあります。その具体的な方法について考えていきましょう。
強制的に車を取り上げるのは絶対NG
ここでご家族が取りがちなのが「車を無理矢理取り上げてしまう」という方法。
実際に入院している方で、入院中に車を取り上げてしまったっていうご家族の方がいらっしゃいました。
Aさんは圧迫骨折後で足が自由にきかなくなり、歩くのにも注意が必要な状態で「医師からもう運転はしない方がいい」と言われていました。
しかしAさんは奥さんと2人暮らし。奥さんも要介護状態で奥さんの面倒もAさんが見ているような生活でした。地域的にも近所のスーパーへ買い物に行くのも車で20分以上かかるような場所。受診もAさん自身の運転で来院していました。
そのためAさんからしてみると車を取り上げられてしまうと、奥さんのお世話や買い物にも行けず、夫婦2人で生活が大変になってしまいます。
そんな理由で車の運転は諦めきれず、家族や医師などが免許返納を促しても強く拒否をしている状態でした。
Aさんと息子さんの関係は悪化し、とうとう息子さんが勝手に車を売り払ってしまいます。
それを知ったAさんは激怒。
「親子の縁を切る」と言って息子さんとも連絡を取らなくなってしまい、Aさんはその後病院内でも暴言などの迷惑行為をするようになってしまい、自宅に退院。
もともと介護保険も何も使っていなかった方なので、とりあえず介護保険の申請だけをすすめて退院となりました。その後担当のケアマネージャーさんからの報告では、Aさんは知り合いの方から車を譲ってもらい、今でも奥さんを車に乗せて近所を運転しているとの情報がありました。
このAさんのように、無理やり取り上げるということが解決につながる可能性はほぼありません。
というのも、本人が車に乗りたいと思えば今この日本では乗れてしまうのが現状です。
10万円ぐらいの安い車を購入することも可能ですしね。
つまりは、本人自身が自分の運転の危険を理解し、運転を控えようと思ってもらえるかどうかが鍵なのです。
効果的な説得の方法
では強制的に話をすすめていくことは危険だと分かってもらえたと思いますが、高齢者のプライドを傷つけずに上手く免許返納をさせるような説得の方法をお伝えします。
指示ではなく、家族の気持ちとして伝える
「親父は運転危ないからそろそろ免許した方がいいんじゃない?」
というのは主語が父親になっていますよね?これは言われた側としては、自分の事を勝手に決めつけられた感じがして不快に感じやすいんです。
その主語を「自分」に置き換えるだけでぐっと印象が変わります。
「俺は親父がもし事故にでも遭ったら心配なんだよ。生活が大変だとは思うし、俺もサポートしようと思ってるから。」
このように自分が思っていることを素直に伝えるだけで相手への感じ方が大きく変わってくるのです。
これはコミュニケーションの方法の一つでもありますが、誰かを行動させたいときには有効な方法ですのでぜひ話し合いに取り入れてみて下さい。
あくまでもご本人の気持ちや意思を尊重しながら、一緒に考えていくというスタンスが重要です。
でも、確実に説得できる方法というのはありません。
時間をかけて、その人に合わせて説得をするしかないとは思いますが、悲しい事故が起こってからだと手遅れです。
さらに認知症などがある方は、時間をかけることで性格の変化などでさらに説得が難しくなってしまうこともありますので、その方の状況に応じ、周りからアプローチをし続けるということが大切かなと思います。
では病院でそういった人がいたら、どう対応しているかについて説明したいと思います。
本人に自分の運転の危険を分かってもらう方法
説得をしても「自分は大丈夫だ」と運転技術を過信しきってしまっている方の場合、ご本人自身が自分の運転が安全かどうかを理解するためにはどうすればいいのでしょうか?
運転シュミレーターがある施設を利用する
実は高齢者の骨折や脳梗塞などで体が今まで通り動かなくなってしまった方には、リハビリができる施設への転院をすすめることがあります。そのリハビリができる施設の中には運転シミュレーターというものを配置している施設があります。
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運転シミュレーターは実際に運転をするようなイメージで、かつリハビリスタッフがその運転が安全で適切なものかどうかを判断し、可能であればより安全な運転ができるようなアドバイスをしたり、不可能と判断されればご本人や運転をやめるよう指導をしてもらえるというメリットがあります。
実際に私が関わっている患者さんも「運転ができるか微妙だ」と判断した場合には、運転の評価目的でリハビリ施設へ転院してもらった方もいます。
このように機械や他者が客観的に見てご本人の運転を評価してもらうことが、ご本人の自信の運転技術を見直すきっかけになることもあります。
高齢者講習で評価してもらう
免許を持っていると、必ず定期的に講習を受けなければいけません。高齢者では実技試験が実施されることになり、実際に運転技術を評価をすることになります。
しかしこの実技講習はかなり身体能力に問題がある方でも、頑張れば受かってしまうという現状があります。実際に「この方は実技講習受からないんじゃないか」という方も受かってしまっているのです。
ですのでこのような講習自体はありますが、運転を抑制するきっかけになることは少ないといえるでしょう。
家族から医師や病院スタッフへ相談する
先ほど医師からの説明やアドバイスは、運転抑止への強制力はないと書きましたが、強制力はないだけで影響力は少なからずあります。
たとえばご本人が何よりも主治医を信頼している場合には、その主治医の言葉が最強の説得になることでしょう。
家族としてできることは、まずは運転や事故の不安を病院や主治医へ相談し、一緒に悩みを共有してもらうことです。そうすることで病院側も一緒に免許返納に向けて面談をしたり、対応してくれることになります。
医師としても「ご本人が免許返納を拒否している」という情報を知っているのと知らないのでは、ご本人への言葉がけも変わってきますよね?ですので病院全体を巻き込んで一緒に考えていくようにしましょう。
免許返納するメリットも伝えよう
上記で「自分の運転は、もう安全じゃないのかな」と本人が感じることができたら、免許返納までもう一押し。
免許返納をすることは、悪いことばかりじゃないということを理解してもらうことが大切です。
そこで車が必要な理由を一つ一つ一緒に考え、問題を解決していきましょう。
「毎月受診に行かなくちゃ」→病院の送迎を利用する、家族がサポートする(「孫の顔も見れるよ!」なんていえばイメージUPにも。)
「買い物はどうするんだ」→食品はコープなどで届けてもらえる、シニアカーの利用もできる(介護保険でレンタル可)
「他にもいくところがある」「つまらない」→タクシーの割引券などももらえる、気分転換に活動を始めてみたら?
など、文章的には思いつくけど、これを現実的に自分の親に説得するのは、非常に難しいのは自分でもわかります。
私の母も一昨年、自損事故を起こしました。
免許返納を考えましたが、もう一度事故を起こしたら免許をなくしていい、という条件のもと、今も運転をしています。
ただ、地域でのさまざまな免許返納の取り組みを進めているところもあるので、そういったものを活用しながら少しずつ意識を変えていけたらいいですね。
家族が今すぐできること
今ご本人の状態が特に病気などもなく元気ではあるものの、家族として運転することが不安に感じている場合には、今すぐできる対策を早期に取り入れることが急がれます。
現在自宅で運転車を乗り回しているような形の場合には、まずはご家族ができる対策を早急に進めていきましょう。
まだ運転はできるけど、何かしらのサポートが欲しい・・・
という方にピッタリの情報をお伝えします。
運転の見守りサービスを導入する
これはNHKのクローズアップ現代でも取り扱われた内容なのですが、ご家族がアプリなどからご本人が運転している距離や道のり、さらには急ブレーキをかけた回数や地点なども表示されすることができるサービスです。
これであれば、ご本人も「監視されている」という不快な気分は感じずに、いつも通りの運転をしながらご家族がその様子を見守ることができる画期的なものです。
ただこのサービスは、家族が見守るという内容のものであり、本人への危機感を持ってもらったり、強制免許返納に繋げるような効果はあまりありません。
しかしこれをご家族が有効に使い、ご本人への説得へのツールとして提示したり、危険な運転だということを認識してもらう証拠として活用するには有効なサービスと言えます。
まずはご本人の運転状況を家族が知りたい場合にはこのようなサービスを検討してみましょう。
[keni-linkcard url=”https://orix-everdrive.jp/”]
こちらは、いざというときに緊急通報やサポートにつながる利用者の声をもとに開発されたドライブレコーダーだそうです。
このようなシステムをフル活用して、事故リスクを下げる工夫も必要かもしれません。
安全な機能が付いている車へ買い換える
現在は車自体が事故を予防できるように安全機能を装備した車が定番になっています。
これから車を買い換える方は、ほとんどこのような安全機能が付いていると言えますが、高齢者が乗っている車は年数が経ったものが多く、この機能は付いていないのが現状です。
ですので本当に運転が危険な場合で免許返納がなかなか進まないといった場合には、自動ブレーキが搭載した安全機能付きの車へ買い替えるということも重要な対策になります。
あと数年は運転することが予想される場合にはできるだけ早めに安全な車への買い替えを行っていきましょう。
まとめ
高齢者への免許返納への説得から、家族ができる対応策などをお話させてもらいました。
今まで自分で運転が出来ていた高齢者の考えや行動を変えるためには、アプローチのすすめ方にもコツがあります。
家族だけで悩まずに、病院やケアマネジャーといった身近な機関やスタッフに相談をしてみるようにしましょう。
私の方でもこのようなご相談、お待ちしています(^^)